ゴーストハントシリーズを読みました

十二国記を完走した直後、角川文庫版『ゴーストハント』が発売された。
周りの小野不由美読者も少女小説好きもこぞってゴーストハントを買っているのを見て私も買い、他の小野作品とともに読み始めた。
旧校舎怪談→鬼談百景→残穢→人形の檻の順。なかなか良い順番で読んだと思う*1

三巻以降は文庫で出ていくのに合わせて読んでいくつもりだったのだが、待ちきれなくてリライト版単行本を読んでいくことにした。
この頃、あるフォロイーがぼーさんにのめりこんでいるのを見て「人をこれほど狂わせる滝川法生とは……?」という興味が勝ったからだ。
ベーシストらしい。ベーシストじゃしょうがない。落ちたら諦めろとしか言えないのだ、ベーシストは。
個人的に機材リストが欲しい。メインのベースとの出逢いは? エフェクターボードはどうなっていますか?

この時は「絶対にこの人が推しです!!!」と言い切れるようなキャラクターはまだいなかったのだが、ジョンが可愛いなと思っていた。
彼はどんな物事もフラットに見ていて冷静なのがいいですね。宗教の理論と科学/超心理学の理論と人柄とが、麻衣のフィルターを通して同じ次元で統合されている。

以下は各巻の真相に触れながら感想を書いていくので、未読の方は今すぐ引き返して続巻を読んでください。
私は完全に自己責任で致命的なネタバレを踏みました。

二、三冊ずつ借りて読んでいこうとしたが、図書館に行ったら単行本が全巻揃っていたので思い切って七巻まで借りて帰った。二週間で五冊、たぶん読み切れると思う。
私の直前に借りた人の貸出票が挟まっていて、その人も全く同じように一気に読んだらしい。

読みました

さてその後どうなったかというと、図書館から帰って午後から『乙女ノ祈リ』を読み始め二日で全部読みました。
十二国記より速い。

『乙女ノ祈リ』は硬派なフーダニットの本格ミステリだった。
犯人を絞り込んでいくロジックがとてもスマートだが、私が舌を巻いたのはむしろ友達との会話を通して手がかりを出したりミスリードしていくなど、少女小説特有の小説作法が巧みに利用されていたところだ。犯人が突きとめられてから動機に迫っていく運びが驚くほど自然で、これもまた少女小説らしい展開だと思う。
倫理を捻じ曲げられてしまった犯人の、狂信的でまっすぐな動機も私好みだ。

ゴーストハントの世界では、超自然現象や心霊現象、それを起こす「もの」が事実存在することを前提として、それらを含めた世界の論理で真相を推理していく。
旧校舎怪談では心霊現象の正体を追及するだけでなく「どのように幕を引くか」も重視されていたし、人形の檻・鮮血の迷宮・海からくるものでは「なぜ心霊現象が起こるのか」を追ううちにちょっとした地域史ミステリに至る。死霊遊戯では「どのように呪術を打ち消すか」が見どころだった。
しかし全巻を通して振り返っても、乙女ノ祈リほどオールドスクールな、解決編の前に「読者への挑戦」を挟めるような本格らしい巻は他にない。

推しができました

『海からくるもの』ではオッカムの剃刀を振るうナルが動けなくなってしまったために、SPRのメンバーが調査・除霊に乗り出す。
霊能者でない安原さんの調査もちょっとした特殊能力で、地域の歴史をあたるのに「図書館で現地の学生にバイトを持ちかける」なんてまるで人間OPAC

この巻のジョンの除霊シーン(取り憑かれている女性の霊を祓うところ)は格好よすぎた。十字架にキスしたところで私は落ちた。
その十字架を私にもください……。

神父相手に何をヴィジュアル系の歌詞みたいなことを。

二巻までに感じていたジョンの姿勢は、その後の巻でも変わらないように思う。
付け加えるなら、超心理学の知識が豊富なだけでなく人に説明するのも上手い。人に分かるように説明するには、その事柄についてよく理解して自分のものにしていなければできないことで、さらに司祭としての喋る技術も入っているのではないだろうか。
説教とお祈り聞きたい……推しの祈る声……。

ちょくちょく信仰ありきの描写があるのも好きで、これはキリスト教に馴染みのない麻衣の目を通すと言葉や表情でしか捉えられないのだが、それがかえって憑き物落としの"腕前"を際立たせる効果を生んでいる。

こういった傾向もシリーズ序盤からずっとあったのに、なんでここまで踏みとどまっていたのだろう?
いやもしかして、人は新たな沼に落ちるとそれにまつわる知識を学ぼうとしたり推しにまつわるものを集めに走ったりするけれど、ジョンに関するそういったものを元からある程度備え持っていたから既に好きになっていたことに気付いていなかったのでは……?
主の祈りは分かるし(テストに出る)、暗誦とまではいかなくても聖書をつっかえずに音読するくらいはできる。
ちなみに宗教が理由で推している訳ではない。プロテスタントに関心はあるがカトリックのことは疎いから、せっかくだし自主勉強しようか*2

一度くらいジョンが主役を喰うくらいの話も読んでみたかった。それこそ綾子みたいに。
綾子も見せ場があって良かったね……。この歳になると少年少女の正当性を担保するために大人を無能扱いするのがそろそろ辛いので気がかりだった。
頼れる大人として書かれるようになって本当に良かった。

『扉を開けて』について

本編最終巻となる『扉を開けて』も、各巻に散りばめられていた伏線を回収していくミステリである。
ナルの正体が分かったところがヤマかと思いきや最後にまた逆転が待っている。

ユージンの夢を振り返れば、伏線という伏線が少女小説のフォーマット中に落としこまれていた。
好きな人にだけ口に出せなかったりすれ違ってしまったことが積もった結果、ナルが助けていてくれたのだと思っていた麻衣の恋は反転する。これまで甘酸っぱく幸せであった恋をあまりにも残酷に、鮮やかなトリックに利用する手口が悪魔めいている*3

真砂子との会話の中で、麻衣が名前を呼ぶのはその人への親愛を表すことだと思い大事にしていると描写されており、ユージンの名前を一度も呼ぶことなくお別れしてしまったのがよりいっそう切ない。
最後の最後のエピローグは爽やかなのに、読み終えた私はガタガタ震えていた。

これからしたいこと

続刊にあたる『悪夢の棲む家』を借りてきたので次はこれを読みたい。
連休が明けたらもうすぐ『乙女ノ祈リ』の文庫も出る。この後もまだ、麻衣たちとの物語を楽しんでいきたい。

*1:個人的には、怖い怖いと聞いていた残穢よりも人形の檻の方が怖かった

*2:その後感動するくらい可愛いロザリオを買った。

*3:この手口には心当たりがある