おいおい

国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)

「JUST MOVIN' ON」のツアーパンフで、氷室さんが感銘を受けたと書いてあったから読んでみた。でもね。
この人、何か勘違いしているとしか思えない。


本書の内容は要するに、

  1. 西洋式の無機質な論理に頼るな
  2. 日本人本来の「武士道」精神をもって、「情」を大事にしていきましょう

ということなのですが、個人的に異論ありまくりです。以下に述べていきます。

「論理」は役に立ちます

これはミステリファンとして言わせてもらいますぜ。
著者は「無機質な論理よりも情を」と繰り返し述べているのですが、それには賛成できません。
なぜなら論理は時として、「情」を語るための最も優れた道具となりうるからです。
言葉の選び方、構成、接続、具体例……人に何かを伝えようとするとき、説得力を持たせるためには、様々な技術を用います。「論理」とは、その技術を磨くことで「情」を生かす、あるいは自分を(人間を)守るという側面が、確かに存在するのです。
現に著者は、「論理だけの世間ではダメだ」ということを、当の論理を巧みに用いて訴えているではありませんか。これには眩暈がしましたね。自分自身で否定した手法をもって、読者を納得させられるとでも思っているんでしょうか。
また、「論理は絶対ではない」ことを論理的に証明していくパラグラフにも泣かされました。これにも、上と同じことが言えます。
まさかのダブルパンチ、そうそうお目にかかれるものではありませんな。

「武士道」は一般庶民の文化ではない

武士道なんつーのは、「むかしは誰もが持っていた美意識」ではありません。「武士の中の、一部のいい身分の人たちのたしなみ」なのですよ。
実際、私の母方の先祖は下級武士でしたが、戦のときにちょちょいと参加するだけで、あとは畑仕事をしていたそうです。逆に言うと、普段は畑仕事をして暮らす庶民でも、人員が足りなくなれば戦に参加するのです。野良着で高楊枝を気取れって? その前に、生活できるだけの金をくれ。
ついでに言えば、そんな見栄っ張りな生活の裏で、女が苦労しなきゃいけないことも忘れないで欲しいね。

まとめ

論理が「情」を生かすためのツールであることを無視し、あまつさえ持つべくもない武士道精神を持てなんて言われてもねぇ。少なくとも、この書き方じゃ私は納得できません。

ただ、ここだけは収穫

UKあたりでは「労働者階級は労働者階級らしくあるべき。分不相応に、上流階級みたいなことをするのは美しくない」という意識があるのに対し、現代日本では「ハイソ(死語)ぶるのが文化的」という風潮があるのかも、と思いました。それにしたって、単なる見栄だと思いますが。