[再読]連城三紀彦「敗北への凱旋」

ところどころ声に出して読みました。
悲しみすら、自分の存在すら忘れて、ただただその文章の中にいる至福。
連城の傑作ミステリを読む時はいつもそうです。

作品として、初めて読んだのは綾辻行人編「贈る物語 Mystery」に収録されていた「過去からの声」でしたが、書籍としては最初に読んだのは「敗北への凱旋」でした。
当時、講談社ノベルスの復刊企画に挙げられ、発売される直前に絶版だった講談社文庫版を見つけたので、ご縁があった本だと勝手に思っています。


まだミステリを読み始めたばかりの、小説にミステリ以外の要素なんて求めていなくて、知ったような口をきいていただけの、17だか18だかの少女の頃でした。
佐々木丸美に出逢って現在の少女趣味が固定されるまでは、連城作品を読み進めてもそれは変わらなくて。
それでも「敗北への凱旋」の、指に旋律を覚えせようとするシーンや、あの傍点の箇所は好きで、心に残っていました。


ねえ先生、そういった部分が如何に美しいか、まるで背丈が伸びていくように、ようやく分かり始めたのに。


連城作品を読む時、その文章に文学青年、文学少女に引き戻される人は多いと思う。
私にとって「敗北への凱旋」は、先述のような出逢いを経た作品であり、10代の、少女の忘れがたい読書経験のひとつであり、ミステリと、小説における音楽表現の豊かさを見た作品であり、師です。
高校生の頃は図書館だよりを作る係をつとめていたので(3年ほど休刊していたそれを復活させたのがささやかな自慢)、「音楽が登場する小説」として紹介したことも良い思い出。
「戻り川心中」「夜よ鼠たちのために」「変調二人羽織」「私という名の変奏曲」など好きな作品は他にも多くありますが、「敗北への凱旋」は思い入れの強い、特別な作品です。