紙上ユキ『少女手帖』

久しぶりに王道少女小説を読みました。面白かったー。
「ふつう」でいるために我慢しながら学校生活を送る主人公・ひなたが、別世界の住人のような美しい同級生の弱点を知ってしまったことから動いていく物語。
同級生、男友達、姉、姉の親友というべき老婦人と、少しずつひなたの世界は広がり始めます。そうしていく中で、生きていく上で隠しているものと譲れないもの、そして弱さを知っていくことで、少女たちは新しい居場所を手探りで探していくのです。


こんなに王道かつ繊細で静かで押し付けがましくなく、誰もが何かを隠しながらその人の数だけ「ふつう」を生きている自己一致の物語、少女小説は貴重だと思います。いい買い物をしました。
静かに声を抑えているような文体がまた良いですね。作中の喫茶店に行ってみたくなります。

陳浩基『13·67』

オールタイムベスト級という評判に違わない傑作。
連城っぽいという声も聞いていましたが、第一話「黒と白のあいだの真実」を読んだ時点では、そこにある要素をどのように捜査(≒トリック)に用いるか、その使い方については私はむしろ横山秀夫的だと感じました。
警察内部の不正を追うような事件も多く書かれており、香港の横山秀夫と呼ぶのがしっくり来るように思います。


独立した短編として読むなら「クワンのいちばん長い日」が個人的ベスト。クワンのスマートな推理、連続する事件をさらに一日にまとめたことでのスピード感、解決法のどこを切っても好きな味。


もう一つの個人的な興味から言うと、クワンの名探偵としてのスタイルを追いかけるような構成も非常に好みです。
私はもともと「事件の性質と名探偵のスタイルは対応している」と考えています。
『13・67』は病床のクワン→ローの師匠→壮年期→切れ者→頭角を現した頃、そして最終話へとクワンの人生を遡りながら、探偵としてのスタイルあるいはレベルに対応した事件が書かれています。
クワンだけでなく、後輩であるローの成長を一緒に書いていくことで、事件は犯人とのハイレベルな見えない駆け引きの応酬となっており、この点がとても良いのです。
このような警察官側の時間軸と、変わりゆく香港の政治事情はある部分で交差しており、『13・67』の縦糸と横糸と表せると思います。

ヴィクトリア・エイヴヤード『レッド・クイーン』

レッド・クイーン (ハーパーBOOKS)

レッド・クイーン (ハーパーBOOKS)

  • 作者: ヴィクトリア・エイヴヤード,田内志文
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2017/03/17
  • メディア: 文庫
  • この商品を含むブログを見る
表紙と帯に惹かれて買った本がとても面白かった!
スラム育ちの少女が王女となり、王子である異母兄弟と駆け引きをしたり、特殊能力バトルありロマンスあり悲劇ありと心躍る活劇ファンタジーでした。
翻訳も好み。主人公であるメアの内面はしっかり描写されていますが、ジメッとしないちょっと硬派な文体が少女の孤高な立場や決意と繋がっていて良いです。

北森鴻『狐闇』

『邪馬台』を読んだところ、こちらが未読だったと判明したため。那智ファンなので、サスペンスのシナリオから那智が何(謎)を見つけ、どう推理するかを楽しみに読みました。 数年ぶりに北森先生のミステリを読んでいますが、やはり好きなので家にある本から読み直そうかな。

連城三紀彦『愛情の限界』

パズル色が強いように思う。けれども、罠と計算と騙し合いの連続展開であることは、連城の恋愛小説の傾向ともほぼ一致する。
連城作品において嘘は矛盾ではなく、むしろそれを通して真実(もしくは恋)を書くツールだと思う。

紅玉いづき『現代詩人探偵』

詩を書くこと、それをアイデンティティとして生きていくことの業と青春小説としての悲しみが溶け合っていた。趣味でですが短歌を詠んでいるので刺さるところがたくさん……。
赤えんぴつを持って、傍線を引きながらまた読みたい。

クリスチア・ブランド『招かれざる客たちのビュッフェ』

短編のページ数の中で幾度も行われる読者との駆け引き、結末へ至るまでのプロットの運び、そして「ジェミニー・クリケット事件」の緻密さが良かった!
収録作では「婚姻飛翔」も好きです。