陳浩基『13·67』

オールタイムベスト級という評判に違わない傑作。
連城っぽいという声も聞いていましたが、第一話「黒と白のあいだの真実」を読んだ時点では、そこにある要素をどのように捜査(≒トリック)に用いるか、その使い方については私はむしろ横山秀夫的だと感じました。
警察内部の不正を追うような事件も多く書かれており、香港の横山秀夫と呼ぶのがしっくり来るように思います。


独立した短編として読むなら「クワンのいちばん長い日」が個人的ベスト。クワンのスマートな推理、連続する事件をさらに一日にまとめたことでのスピード感、解決法のどこを切っても好きな味。


もう一つの個人的な興味から言うと、クワンの名探偵としてのスタイルを追いかけるような構成も非常に好みです。
私はもともと「事件の性質と名探偵のスタイルは対応している」と考えています。
『13・67』は病床のクワン→ローの師匠→壮年期→切れ者→頭角を現した頃、そして最終話へとクワンの人生を遡りながら、探偵としてのスタイルあるいはレベルに対応した事件が書かれています。
クワンだけでなく、後輩であるローの成長を一緒に書いていくことで、事件は犯人とのハイレベルな見えない駆け引きの応酬となっており、この点がとても良いのです。
このような警察官側の時間軸と、変わりゆく香港の政治事情はある部分で交差しており、『13・67』の縦糸と横糸と表せると思います。