米澤穂信「愚者のエンドロール」における里志-奉太郎の関係

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

福部里志は米澤ミステリのいいとこどりのようなキャラクターだと思います。ある意味狂人のロジックのように明確な目標を持っているにも関わらず、ちゃんと感情を持っていて、揺れまくってて、思春期的で愛おしい。
こうしたキャラクター性、のちに「クドリャフカの順番」や傑作「手作りチョコレート事件」に繋がるような役割が初めてはっきりと書かれ、語り手である奉太郎にそれを認識させた作品が「愚者のエンドロール」です。


古典部シリーズをキャラクタに焦点をあてて読んだ場合、「愚者のエンドロール」は氷菓事件を通して変化した古典部の関係性を描いた小説でもあるといえます。
氷菓」では奉太郎-える(主人公-ヒロイン)の関係ありきで捜査が行われるのに対し、「愚者」は古典部四人それぞれ、またクラスメイトや学校関係者も意見を出し合う場面が多いこともありますが、奉太郎が氷菓事件を経て「探偵役」を背負うことになったため、「主人公-関係人物」であった関係が「探偵役-関係者」として読むことが可能になったのです*1


特に奉太郎-える以外で大きな変化を迎えたのが、「主人公-友人」から「探偵-データベース兼協力者(≠助手)」にスライドさせられた里志。対等だと思っていた友人が、里志の憧れである探偵そのものであることが実証され、なおかつ自分は決して追いつくことのできないデータベースであることを思い知らせれたのです。
この関係性がやりきれなくて、同時にとても惹かれます。諦めたっぷりなのに里志はまるで奉太郎に依存するように、あるいは潰して出し抜こうとするかのように傍を離れない。これは男性同士ならではの関係だと思います。
一方の奉太郎はというと、これほど生々しく生々しくドロドロした感情を持った人間がいるにも関わらず*2、里志の傍を離れようとしません。なぜなら里志は、奉太郎が「探偵」となる以前からの友達だから。
この点、里志の方が奉太郎への執着が強いと思います。

*1:ここで重要なのは作者自身の書き方ではなく、読み手による解釈です

*2:探偵にとってどれほど危険なことか、考えるに及びません