米澤穂信「愚者のエンドロール」

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

突如としてミステリマニアへと変貌する古典部

しかし、そのキャラクター配置が良い。展開の上でも結末の「苦さ」の演出も、それによって上手く機能している。

米澤版「毒入りチョコレート」&「ミステリーの掟」

そして、推理以上に面白いのが、ミステリをいろんな方面から、おちょくった(肯定的に)記述の数々。東野圭吾の「名探偵の掟」を思い出しました。胸をちくちく痛めながら読んだっけ。
以下にちょっとずつ引用(すべてスニーカー文庫版から)。

期せずして里志と伊原が、同時に声を上げた。里志は嬉しそうに、伊原は不満そうに。
「館ものか!」
「館ものなの?」
(41p)

これだけで、作品のコンセプトが分かりますよね。

「落ちがなけりゃ撮りようもないからみんな騒いでいるが、おれに言わせれば見ているやつはトリックなんかは気にしないさ。要はドラマがばっちり決まればそれでいい。犯人はお前だーって決め付けて、犯人が涙ながらに事情を語る。これで話が決まるんだ。」
(中略)
客はトリックを気にしないと言い切る中城の姿勢は奇妙に思える。
……だが、少し考えてみれば、どうだろう。(中略)それを見に来るのはどういう人間だろうか。
それは確かに探偵小説研究会の連中もいるだろうが、ほとんどは推理小説など読んだこともないやつじゃないか。根拠のない話じゃない、(中略)過去一年間で「小説」を一冊でも読んだことがある神高生は四割程度だったのだ。更にその中で何割が、推理小説の、それもトリックに注目した読み方をしているのか。
(87〜88p)

ついでに言うと、小説を読むような余裕もない環境をつくっているのは、大人です。読むことに慣れないから、いつまでたっても「読めない」んです。

「で、でも先輩。密室はどうなるんです。鍵がかかってたのは」
何でもないことのように、沢木口はさらりと答える。
「別にいいじゃない、鍵ぐらい。」
(168p)

この思い切りの良さ! ここまで言っちゃえば文句も出ないよ。

里志は古泉に似ている

氷菓」でのホータローは「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョンに似ている、と思って読んでいたら、なんと里志はここに至って古泉一樹に似てくる。
詳しいことは避けるけど、189〜190ページを見れば分かる。