抱き合う指のアイロニー ――氷室京介論

勢いでやってみました。自分の指フェチ論みたいですが、違いますよ。

歌詞の世界観

氷室京介の曲の世界観は大きく2つに分類できます。
1つは「That's Rock'n'Roll!」と言わんばかりの大仰なもの。もう1つが、自身の体験がもとであろう等身大の曲(番外編でポップな曲もあります)。
そのどちらの歌詞にもよく見られるのが、孤独を埋め合わそうとする姿勢です。代表的な曲でいうと「ANGEL」「JELOUSYを眠らせて」「わがままジュリエット」などですね。
一口にいっても、「埋める」ための手段は多種多様です。社会への反抗であったり、音楽をやっていくこともそうですし、人間関係ならば言葉……恋愛関係では抱き合うこと、関係を持つこと、時に傷付けあうことだってコミュニケーションになりえます(氷室京介のラブソングは特に「傷付ける」ことも重要なファクターのようです。「もうあれほど誰かを大切に想うこと 二度とはないだろう (LOVER'S DAY)」と言いきるほどの相手なら、自分との関係でできた傷、消せない悲しみは、命を捧げた痕跡に等しいのでしょう)。
氷室のそんな姿勢はBOOWY時代からはっきり表れていましたし、最近の「Be Yourself」に至るまで、スタイルは違えど繰り返し歌われてきました。
ですが、彼は痛々しいほどピュアでナイーヴな人間です。届くかも分からないことへの不安に囚われることもあります。たとえうまくはいかなくとも、埋めようとしつづけもがく時、それが最も表れるのは――少しでも相手へ近付こうと伸ばすものは――そう、指です。

<指>と書いて「アイロニー」と読め

意外と見落とされがちですが、「指」は氷室がよく使うモチーフです。

馴れ合いの指に For good chace(わがままジュリエット


LOVE & GAME 震えるならシャイな指に(LOVE & GAME)


絡めた熱い指は  爆破装置のTRIGGER(SLEEPLESS NIGHT )

いつ見ても「なんか間違ってる感」が素敵です。じゃなくて。
考えてもみてください。
「手を伸ばす」という慣用句はありますが、はたして伸ばしたその「手」の中で一番相手に近い位置にあるのはどこですか? 誰かと手を繋ぐ時、何かを撫でるとき、最初に触れるのはどこですか? 指先ですよ。
また、指は自分の心臓から最も遠い部分でありながら、意志さえあればいくらでも動かせます。訓練次第では、からだのどの部位よりも自由に動くようにもなります。ただし、ここには「舌を除いた部位」と注釈を加えなければなりません(人体で最も敏感にできているのは舌なのだそうです)。この点は非常に重要です。何よりも先に近づき、触れようとするその指は、最初から「2番手」であることが運命づけられていることを暗喩しています。余談ですが、指は構造上関節が弱いため意外と簡単にちぎれることもしばしばだとか。

抱き合う指に眠れないジェラシー 

上にも書きました「JELOUSYを眠らせて」に登場するこのフレーズは、弱く繊細で傷だらけの指をそれでも伸ばそうとする氷室曲の世界を最も端的に表現し、象徴しています。