連城三紀彦「落日の門」

落日の門

落日の門

連作短編集、になるのかな。
昭和のある事件をめぐる親友と兄弟と、妻と母子の関係が何重にも絡まり、それを(広義の)ミステリ的な手法でなお絡ませた細密なパズルのような作品。
中でも「夕かげろう」「家路」は独立した短編としてもかなり高密度で凄まじいです。


「夕かげろう」まで読んだ時点で、これが一番好きだろうと思ったのだけど(これまでの傾向と自分の好みから考えて)、「家路」はそれを越えてきました。
連城の書くミステリの破壊感は、アイデンティティの崩壊でもあるからだと思うんです。自分、愛する相手、そして相手から見られている自分の像が壊れていく予感、あるいはそれを知っていて結末を迎えるしかない覚悟と救いのなさ、悪夢だけに託せる希望。
美しく構成されるからこそ潰されるのも一瞬。この文章を酒に溶かして飲みこんでしまいたい。絶対喉ごしが良い。


こんなにワクワクさせて、まだどこかにいるんじゃないかって思っちゃうじゃないねえ。