連城三紀彦「美の神たちの叛乱」

美の神たちの叛乱 (新潮文庫)

美の神たちの叛乱 (新潮文庫)

嘘に次ぐ嘘、逆説に次ぐ逆説でめかしこんだ贋作をめぐる小説。素晴らしかった。

俳優の役割

連城三紀彦が繰り返し書いていたモチーフのひとつに”役者”があります。
「美の神たちの叛乱」には八十二歳にして少女のような美貌を持つ元女優が、事件の重要な関係者として登場します。
また本書は文中や登場人物の台詞にさえ”嘘”が散りばめられており、嘘しか口にすることのない男もいます。なぜ多くの逆説を、連城は役者とともに書いてきたのでしょうか。
答えは、”芝居”が嘘をその表情や声の中で、板の上で、フィルムの中で、またそれを目にする人の中で、真実にすることだからだと思います。


それはもちろん、原稿用紙の上でも可能です。

「嘘はいつもその裏に真実を隠していたし、登場人物の誰もが自分が本物の自分なのかどうかすら確信を持てずにいたのだ。

(連城三紀彦「美の神たちの叛乱」新潮文庫479頁)


嘘が真実であることを知っているのは、俳優だけです。
千街晶之は「美女」の解説で「俳優が登場する作品ほど、短篇であっても構成が複雑化する傾向がある」ことを指摘しています。
連城作品において俳優とは、逆説を真実とするために置く必要のある装置だったのでしょう。


「私という名の変奏曲」をはじめとする整形美女にも同じことがの言えるかもしれません。