今年のアルバム1 ーー摩天楼オペラ「喝采と激情のグロリア」

一番聴いた、そして一番良かったと思うアルバムをまとめるシーズンですが、自分のそれはdefspiral「Voyage」と摩天楼オペラ喝采と激情のグロリア」で最後まで決めかねています。
Voyageはライブなどで見てきた曲の成長や思い入れがある分評価が変動しているのですが、喝采と激情のグロリアもコンセプチュアルに統一された世界観が美しい、完成度の高いアルバムだと思います。
そこで「喝采と激情のグロリア」から感想をまとめてみましょう。

摩天楼オペラ喝采と激情のグロリア」

メジャー2枚目のアルバム。
Twitterで読んだ燿さんの言葉が好きで摩天楼オペラに興味を持ち、いいタイミングでアルバムが発売されるということで購入したのですが、人から入ったはずなのに燿さんのベースプレイが一発で気に入ってしまうという大事件。
5〜6弦の指弾き、よく動くベースラインでありながら決して他のパートの邪魔をせず曲の進行に従って盛り上げていくのが心地よく、それでいてちょっとした隙間に駆け上がるようなフレーズを入れてくるのが可愛らしい。ライトハンドも得意で見た目にも楽しく、そのまま真っ逆さまにバンドごと好きになりました。
疾走感と哀愁のあるギター、癖はありますがボーカルも好きな感じですし、もともとピアノを弾いていたのでロックバンドにこれほどピアノを歌わせるキーボーディストがいるというのも嬉しかった。


さてこのアルバムは先行シングルGLORIA、Innovational Symphoniaと表題作「喝采と激情のグロリア」というグロリア三部作を中心とし、"合唱"をコンセプトに制作されています(東京混声合唱団が参加)。
おそらくはライブでの一体感、声を重ねていくことで曲を完成させるのを前提とし、しかしあくまでもバンドのボーカル・苑さんの存在感と彼の描く物語が一番に生かされているのが摩天楼オペラらしいと思います。
各曲のテーマや対になる感情を受け継いでいくような曲順なので、最初から最後までダレない統一感も秀逸。


それが象徴されているのが表題作「喝采と激情のグロリア」で、シンセを多用した厚みのあるメロスピからBメロのピアノ+ボーカルのみによる部分へ展開し、GLORIAで用いられた英詩をそのままもっと広がりのあるメロディへと昇華させる。さらに讃美歌を思わせるような大サビを歌いあげ、最後は苑さんのアカペラで終わる。
この展開は、直前のトラックであるインスト曲「Midnight Fanfare」が伏線となっていることを指摘したい。
何を隠そう、私が摩天楼オペラに落ちた決定機がMidnight Fanfareなのです。
インスト曲を挟むからこそアカペラ締めが生きていると思いますし、トランペットの音(シンセ)がキリスト教で死者の復活を告げる楽器であることを見過ごすことは出来ません。
喝采と激情のグロリアの、他ならぬアカペラの詞は「永遠を生む私たちのグロリア ここで産まれて ここで命を落とすの」。
こんな仕掛けができるからこそ摩天楼オペラは面白いバンドなのだと思います(同時に、苑さんの歌声が絶対でなければできないことでもある)。
このように喝采と激情のグロリアが終わると、再び弦楽器のトレモロから始まるアルバムの先頭へと戻る。
まるで"永遠"の先に新たな命を、栄光を求めようとするように。


なお個人的にはSWORDも物語性を高めることに一役買っていると思います。
これは燿さん作曲でベースもピック弾き、ゲームで強敵と対戦するシーンを意識したという曲です。

DVD「GLORIA TOUR -GRAND FINALE- LIVE FILM in Zepp Tokyo

作品として切り離せないのがこちら。
GLORIAを巡り3回に渡って行われた全国ツアー、3本目のファイナルーー"合唱"というコンセプトの通り、声を重ねるほど信じられない進化を遂げてきたであろうこのツアーのファイナル、グランドフィナーレを収めたDVDです。


ライブDVDとしては珍しくアンコールは収録されていません。
これは、アルバム「喝采と激情のグロリア」を表した一個の"作品"として見てほしいというメンバーの意向によるもの。人気のある曲が演奏されたり、その場には居られなかった人たちへ向けたMCもあったため反対の声もあったようですが、最後まで見た私は、メンバーの意向に納得せざるを得ませんでした。


とても良い作品を見た、と思いました。


喝采と激情のグロリアは、ツアー中にいつしか「永遠を生む私達のグロリア」の部分さえ合唱するようになり、マイクレスのアカペラを響かせた後に、本当のグランドフィナーレである2回目のGLORIA。
そして最後に映されたのは、幕を降ろしたステージへと鳴り止まないアンコールの声。
喝采と激情のグロリアのひとつの到達点、その声の続きを、摩天楼オペラの未来を見たいと願いました……。


喝采と激情のグロリア」は今振り返れば成長途中にリリースされた作品であり、ライブを通して摩天楼オペラ自身を成長させたアルバムだと思います。
作品そのものの完成度の高さと、今年バンドが見せた成長、そして未来の飛躍を予感させるアルバムとなったことから、アルバム大賞には第一の候補としてこの作品を挙げたいと思います。