今年のアルバム2 ーーdefspiral「Voyage」

2013年の本命馬

なのですが、何とも評価の定まらない一枚です。というのも、完成度は最初から折り紙つきであるにも関わらず、リリースされてから(主にライブを通して)曲自身が成長していくため聴くたびにアルバムさえも様相を変えていくからです。
まるで仮面を変えながら踊り続ける舞踏会のように、あるいは少し見ないうちに驚くほど大人びた顔になっていた少年のように。

概要

defspiralとしては2枚目のアルバム。
前作「PROGRESS」はどちらかというと典型的なジャパニーズ・ロック色の強いアルバムですが、少しディスコっぽい要素の入ったダンサブルなシングル「LOTUS」をきっかけに曲調を広げ、「Break the silence」、そして「GLARE」「Masquerade」に続く3ヶ月連続リリースの最後にこのアルバム「Voyage」が発売となりました。


直球のロックはもちろんのこと、もはやお家芸となったダンスチューン、お伽話のような不安定な世界、アルバムの白眉とも言える退廃を匂わせるミディアム、未来へ走り出す少年のようにピュアな決意。
これらの振れ幅豊かな曲たちを、揺るぎなくdefspiralの音楽として描ききるバンドの力までも見られるアルバムです。

感想

実はアルバムリリース当時にも簡単なメモをこのブログに書いているのですが、その時から全く評価が変わっていないのが次の2点。

  • REASONが一番好き
  • BREAK THE SILENCE→LOTUS→VERMILLIONで声が変わるポイントが好き


ひとまず気になる曲を追いましょう。
・RAINBOW
お伽話のように掴めない世界観。明るい曲調でサビのハーフテンポが聴きどころですが、歌詞がどこか悲しげで不思議な余韻を残す曲です。この歌詞のテーマは明言されていませんが、私は「喪失」ではないかと思うのです。


・花とリビドー
もともと正反対のような単語同士の組み合わせが好きで、タイトルが発表された時から気になっていた曲です。
退廃、デカダンを匂わせるミッドテンポに始まり、手をとって踊ろうと誘ったリビドー……しかしそれほどあからさまにエロティックだとは思わないんです。
代わりにこの曲にあると思うのは、ほとんど殺す殺されるの域で、怖いくらい生きようとしている「情念」。初期連城三紀彦のような、と言っても誰も共感しないでしょうが、ああいう、行為を通してぶつけ合う命や死の衝動や、悪夢にしか希望を託せないような、そんな見てはいけない淵だと思います。


BREAK THE SILENCE〜LOTUS〜VERMILLION
一転して「時の生まれる音が鳴り響く BREAK THE SILENCE」という歌詞が印象的な疾走感溢れるBREAK THE SILENCEで再び目が覚め、LOTUS。
「汚れなく咲いていてくれ」と願うのが「その胸に眠るイノセンス」だということが愛おしくて仕方がない。
ここからVERMILLIONの深い声へと落ちるポイントが大好きです。なんていい楽器。TAKA氏を好きになってから、ボーカリストを楽器+演奏者として捉えたり、ボーカルを中心にバンドの音を再構成して考える面白みを再発見しました。


さて、ここで「踊る」というワードが繰り返されているのは興味深いと思いませんか?
ダンスチューンが増えたことから、歌詞に「踊る」という言葉が多くなるのは比率から言えば当然ですが、たとえばVERMILLIONのような曲に、ある種の痛みを伴いながら「踊れ」と狂っていくのを見ると、それだけの意味ではない気がします。
たぶん、TAKA氏が歌詞で書く「踊る」とは、生命、生きること、感情のあること、楽しむこと、悲しみを表すこと、夢、性、愛すること、そんなことを内包している。


・REASON
先述した通り、Voyageではこの曲が一番好きです。
一番では寂しかった歌詞が、2番以降書き換えられてこんな景色になるのかと感嘆したものです。
やや高い澄んだ声のせいか、太陽が登る少し前の空に向かい、異国の大地を蹴って走り出す裸足の少年の姿が浮かびます。
けれども、「夢の果てにどんな答えが待っていても構わない」という痛みがあるのが良い。ちゃんと時を歩むことを知ってきた人。

ライブ「CENTER OF THE SPIRAL」について

2013年は早くからこのライブが決まっていたそうで、これまでよりもキャパシティの大きい新宿BLAZEワンマンを目標にCDリリース、夏のツアー、イベントツアーへの参加など、メンバー自身が「defspiralの魅力を伝えたい」とインスト等で語っていた通り真剣に動員を増やそうとしてきました。
その目的の地を見たいという気持ちがもちろんあって、目標としていたそれに数として協力できればという馬鹿げた思いがあって、けれど行ってみればそこは、こちら側こそ愛に包まれていたんじゃないかと思う。


RAINBOWの終わりでTAKAさんが「消えないでくれよ」と言って、STORMが始まった時に、この日の見えないテーマは「存在の確かさ」ではないかと思いました。
だから、INNOCENTを初めてライブで聴けて色んな出来事を思い出さずにはいられなかったけど、それでもNot Aloneが悲しくなかった。その代わり、直後にGLAREのイントロが鳴った瞬間に涙が溢れた。
勝手な解釈だけど、TAKAさんがGLAREの歌詞を書いたこととNot Aloneをもう一度歌おうと思うようになったことはどこかで繋がっている気がしていた。続けて歌うことで、(そもそも推測だけど)本来のGLAREをようやく見られたのだと思う。


defspiral、TAKA氏の歌詞はセットリストによって物語を入れ替えていけるのが強みだと思う。夏のツアーでも、アルバムの曲と並べることでPROGRESS以前の曲(SALVAGE、DIVE INTO THE MIRROR、RESISTANCEなど)がVoyageと同じ地点の"始まり"の曲であるかのように聴こえたのが印象に残っています。
もちろんPROGRESSもそういったアルバムではあるのですが、Voyageはもっと見るべき景色を求めている……いや、ワンマンが終わった今となっては、求めていたアルバムだと思う。
求めていた景色の一部に、私は溶け込めていただろうか。

総評

少年が旅立つエンドロールを見送ると、フィルムはまた出港の瞬間から再生される。
defspiralの音楽性を広げ、最初から完成度が高いにも関わらずライブを重ねるごとに求める景色へと走っていくアルバム。
傑作。