NHKラジオ、米澤穂信インタビュー書き起こし

私がメモを取りまとめた分です。ところどころ、ママではない部分があります。


・ミステリとしての小説づくり
普通とは違う何を考えていくのか掘り下げていくこと。『満願』はトリックが先にあり、それを活かすため舞台を逆算していった。
ロジックだけで書くことはできなくもないが、小説とした時に「なぜこの人はこう動くのか」と考えると人物像が必要となる。そこがミステリとしての面白さがあるのではないか。


・人物や舞台の価値観について
たとえば「万灯」のそれはミステリとしての仕掛けだけなら書く必要はないが、小説として、彩りではなく本質的に必要としたシーン。


・どうやってそれを探すのか?
近しい人でも本当に理解することはできないと思う。文化人類学的な着眼点なので、崇めるもの等からアプローチしていく。



・『満願』は自分にとってどういう存在?
どんなミステリが好きなのか、良いものと思っているのかを積み重ねて一冊にすることができた記念碑的なもの。
『満願』の評価は自分一人の手柄ではなくて、かつて自分が好きだったミステリを「これ良いよね」と言ってもらえた気がする。




・いつ頃から物語を書き始めたのか?
学生の頃通学中にお話を考えたりしていたが、それが「小説を書くこと」と結びついたのは中学生の頃。綾辻行人十角館の殺人』にのめりこむ。初めて書いたのは文化祭の脚本。その時点ではファンタジー、SFなど手当り次第、ミステリを中心にしようとは思っていなかった。
大学生の頃北村薫の作品と出逢う。日常の謎は自分の文体・文章、向いている方向と合致していると思い、いくつか書いてみてもっと追求したいと感じる。
インターネット黎明期、たくさんの人たちが小説を発表していた。そこには書きたい、読んでもらいたいという熱があった。楽しい時間だった。


・デビュー前後について
小学生の頃からお話を作ったり、それに携わる仕事に就くことになるのだろうと考えていた。作家になるんだ、と思ったのはデビューが決まった時。
同時期に書店員の仕事をしていた。自店に200冊の『氷菓』が入荷され店がかりで猛プッシュ。自分の本を売りながら、その作者であることは隠さなかった。
全国の書店で、自分の勤めていた店での『氷菓』の売上は突出していた。


レーベル廃刊のため、小説を発表することはできなくなるかもしれないことに。しかしあまり悲観はしていなかった。作家でなくてもお話に携わる仕事は他にもあると思った。幸い『愚者のエンドロール』が複数の編集者の目にとまったことから依頼があり、『さよなら妖精』、古典部の続きへ。


この時のことと書店員時代の経験から、本はお話だけではない、と思うように。編集や校正、運んだり売ったりする人がいる。お話はそれだけで存在するが、本はそうではない。できあがった本をたくさんの人に届けるため、できることはある。本当は覆面作家になりたかったが、こうして名前を意識する。



・書く原動力
二つある。
一つは読者。読んでくれるたくさんの人がいる、楽しんでくれることが励みになる。
もう一つはこの世に無数の本があること、それ自体が力になっている。なかなか書けない時、本を読むとまた原稿に向かえるようになる。


書いている間は楽しいとは思わない。登山のように行く道は苦しい、しかし終わってしまうとまた行きたくなる。
小説家は天職。やってきたことをこれからもやっていけることが幸せ。



・これからのこと
ミステリが本領。ただ自分が書く話が、ミステリを必要としなくなった時に無理矢理入れるのも歪んでいる。その時々でいい形にするために必要なものがあり、いまのところそれがミステリなのだと思う。
これからも足元を見て、ひとつひとつの仕事を大事にしていきたい。