ファンレターの書き方

はじめに

小説にヴィジュアル系にサッカーにと、いまだ手紙文化が根強く残っているジャンルのファンであることから、私はミュージシャンや選手に宛ててことあるごとに手紙を書いています。
以前からTwiter上などで「手紙にはどんなことを書けばいいの?」「住所やプロフィールはどの程度書くの?」といった質問を(特に作家さんのサイン会前に)よく見ていたため、私なりの手紙の書き方についてまとめようと思います。
個人の感覚で書いているものなので、あくまで一例としてですが何かのご参考になれば幸いです。

レターセット

どんなものでもいいと思います。自分でデコる人もいるようですが、私は絵心がないので市販のものをそのまま使うか、たまにマスキングテープを貼る程度です。
自分が可愛いと思った柄で充分ですが、相手が見た時に喜んでくれるか想像しながら選ぶと楽しいです。どんどん買っちゃいます。

最初の二、三通は同じレターセットで出すといいと思われます。はじめの手紙は印象に残る物なので、統一することで次回以降「前に書いてくれた人だ」と分かってもらいやすくなります。
季節に合わせて選んだり、頻繁に出す人なら柄なしのプレーンな封筒で、中の便箋や封シールだけを変えるのも手です。
いずれにせよレターセット=差出人の顔だということは頭に置いておきましょう。

内容

このブログを読まれる方は小説好きが多いと思われるので、例として作家さんの新刊発売記念サイン会に合わせて初めて手紙を書くつもりで、どんなことを書くのか挙げてみます。

  • 挨拶
    • 基本です。「はじめまして」でも充分ですが、丁寧に書くことは決してマイナスにはならないので、時候の挨拶があった方が落ち着くという方は書いても良いと思います。
  • 自分の簡単なプロフィール
    • 住んでいる都道府県名、学生か社会人か、日頃どんな本を好んで読んでいるかなど。ざっくりとで大丈夫です。
    • よく知っている間柄同士の手紙なら必要ありませんが、この時点でファンレターは見ず知らずの人間同士で送ったり読んだりしています。どんな人が手紙を書いているのか、ある程度分かると安心するという方もいるようなので、あった方がいいでしょう。
  • 好きになったきっかけ(最初に読んだ時のこと)、作品や文章の好きなところ
    • 難しく考えずストレートに伝えましょう。
    • バンドや劇団など複数のメンバーがいる中の一人に宛てる場合は、「バンド(全体)の好きなところ→中でもそのメンバーが好きなのはどうしてか」といった順にすると書きやすいです。
  • 最新作の感想
    • 好きなシーンや感銘を受けたところ、面白かった点について書きます。
    • 書ける範囲でもいいので「作品に触れている間(あるいはその直後)、どのような気持ちでいたか」を書いてみましょう。作品やその人の仕事から読者が何を得たのか、を伝えるのです。作る方にとって励みになるといいます。
  • 応援のメッセージ
    • 現在だけでなく、未来のその人への期待を書くのもアリです。
  • 締めの挨拶
    • 「お体に気をつけて、お仕事がんばってください」等。
    • 次にサイン会やイベントに行く予定があるなら、それを伝えても。
  • 署名
    • 本名が無難でしょう。インターネットで使っているハンドルネーム、その他現場で名乗っている名前やラジオネームなどがある方は書いても可。
    • 「ここに住所を書いた方がいいのか?」ということに関しては諸説あります。そもそも封筒に住所の記載がなければ受け取らないという極端な作家さんもいれば、返信を要求しているようだから書くことは避けるという差出人、相手の年齢による説、公式ルールで個人情報NG etc. 総合して、郵送なら封筒に書く、現場で手渡し・プレゼントボックスに入れて渡すなら不要というケースが多いと思われる。私の見てきた範囲の考えですが。
    • 日付とサイン会開催地を添えるといいです。当日ではなく後日落ち着いてから読む場合、いつどこで貰った手紙なのか分からなくなる恐れがあります。

以上、感想やメッセージを二〜三枚として、始めと終わりの挨拶を加算し合計で二〜長くて五枚程度にまとめます。内容がしっかりしていれば短くても大丈夫ですが、あまり長いと読む方の負担になることもあります。
目安なので、この枚数にしなければいけないというものはないです。
長くても短くても、ご自分の文章や伝えたいメッセージに合わせた丈に自然にまとまります。


最後に封筒についてですが、手渡しならシールまたは糊でとめて、(言うまでもありませんが)表にはお渡しする先生の名前、裏には自分の署名を。必ずしも住所まで書く必要はないことが殆どですが、作家さんのHPなどで手紙はこのように出してほしいという希望を書いていることもあるので、事前に調べてみましょう。
郵送の場合は糊でとめて〆の印かシール・スタンプ等を。こちらは封筒に住所必須です。


なお返信を受け付けている方にそれを希望される場合は、返信用封筒(または宛名シール)を用意し、自分の住所を予め書き込んで送料分の切手を添えます。

なぜ書くのか

これは何回も自問自答しています。
「もう今回はいい、私なんかが書かなくたってファンの人はいっぱいいる」と思ってふてくされていたのに、結局当日ギリギリになって書いた、なんてこともたくさんあります。というか私はほぼ毎回そうです。
予定があって行かないつもりだったのに急遽行けることになって、机の上に放り出してあったレターセットを掴んで駅まで走り、途中で色紙を買って、電車の中でそれを下敷きに使って書いたこともあります(あれは大変だった……二度とやりたくない)。
寝不足になったり遅刻したり、終了時刻に間に合わなくなったりするくらいなら本末転倒なのでスッパリ諦めますが、なぜかそういう場面がよく夢に出てきます。


手紙を書く理由としては、喜んでもらいたい、とにかくこれは言わなければならないといった情熱、サイン中の時間内に話すには長すぎる、直接口頭で話すよりも文書で伝えることが適した内容である等がありますが、一番大きな動機としては「あなたや作品のどこを見て、こんな風に愛している人がいるのだということを伝えたい」という想いがあるからではないかと自分では思っています。
以前、宝塚ファンのフォロワーさんと手紙についてお話した際、「『またひとり、あなたのファンが新たに生まれたんですよ』と伝えたくて書いた」と仰っていて、それもとても素敵だなあと思いました。


現実的には、特に出版社やレコード会社を経由する場合、会社に対して「この作者/アーティストの作品のファンで、新作を求めている。然るべきところにお金が入るように新刊で購入しており、今後もそうするつもりである」とアピールすることができます。ライトノベルなどはこういった読者からの意見が数枚でも届くことで息が続く例もあるようです。
ネット上に感想を書くだけでは見つけられなかったり、「読者からこういう声があった」と作家さんが口頭で編集部に言ってもその意見が本当にあったものなのか証明できないことがあるため、肉筆の手紙を届けるのは有効なようです。
この意味では雑誌のアンケートなども活用できますし(これはこれでどんどん出しましょう。反響=次作への希望です)、熱心な固定ファンがいることをアピールする手段は他にもあります。しかし、メール一通、ボタン一つで言葉を送れるデジタルの時代だからこそ、レターセットを用意し、何を書くか考え、ペンをとり、誤字があれば書き直し、切手を貼って投函するところまで熱意を必要とする手紙は評価されると、特に出版関係ではよく聞きます。何より作家さんが貰って嬉しいでしょう。


またユーザー側にとっても、たとえばシリーズの続刊を希望したり、今後この地方でサイン会を行って欲しい等の要望を伝えられるメリットがあります。住んでいる都道府県を書く理由のひとつです。必殺名古屋飛ばしの可能性を少しでも低くするために書きます。死活問題です。
どこに来て欲しいと思われているのか、その際にどのくらいの動員が見込めるのか、全く分からない状態よりも、一人でも多くの声があった方がいいでしょう。バンドのツアーも同様です。


ここまで長々と書いてきましたが、手紙についてのお話で忘れられないことがあります。
前の職場の店長(私がバンド好きなのを知っている)と話していた最中、好きなバンドマンとその人の年齢が近かったため「手紙って、貰って嬉しいものですか?」と聞いてみた時のことです。はじめは「重い。メールにしたら?」と一刀両断されましたが、それがファンレターであることを説明すると、「それなら手紙を書きなよ。手紙はメールに比べて重いけれど、その分しっかり読むと思う。読んでそのまま忘れてしまうなんてことはない。好きだとか感動したとか伝えたいなら、重い方がいい」と力説されたのです。仕事中にも見たことがないほど真剣な顔で。


どんなきっかけであれ、「好きです、応援しています」というメッセージを謙虚な気持ちで書けば、貰って嬉しくない人はいないと思います。
このエントリーが、そういった手紙を書こうとしている誰かの役に立てばいいなと思います。