米津玄師に突然ハマった人が読んだ本の話②

こういう事情で今まで手に取らなかったような本を読み続けている。
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神学と詩集

ダンテ『神曲

有言実行。
LOSERに引用されていると知って、読解に役立つかと思って読んだ。
プロテスタントでは聖母信仰も聖人崇拝もないため結構知識が偏る。なので、今になって知らないことを吸収していくのが面白い。

ベアトリーチェいつ出てくるんだろうと思いながら長い長い地獄編を読み、煉獄編に入った途端に点と点がものすごい勢いで線に繋がっていく。脚注を見ながら聖書開いて忙しく読んだ。
天国編の夥しい神学的議論の数々も楽しい。

米津の歌詞には神以外にも「天使」や「亡霊」がよく出てくる(意外に救世主-メシア-は出てこない)。
ルーツは『神曲』だけではないという前提ではあるが、そのまま適用させるなら歌詞中の「亡霊」は救われず、あるいは救いに至る道の途中にいる人の魂とみていいと思う(多くは苦しんでる)。
ただ天使は神学上の神の使い、ダンテを導き助け時に力を与える存在というよりももっと広い、抽象的な意味がありそう。

神曲』はamenにも引用されているのかな? 「光の澱に道草を誘う亡霊 九つの門を通り抜けてあの山の麓へと」が地獄〜煉獄と重なる。


高村光太郎高村光太郎詩集』

高村光太郎詩集 (新潮文庫)

高村光太郎詩集 (新潮文庫)

『我が愛する詩人の伝記』で孫引きされていた「レモン哀歌」を読んで。
死別とレモンとくればここから着想を得たのではないか、と思われるのだが、教養不足で分からなかったのが悔しかったので独断と偏見でこれも読んだ。

塚本邦雄『詞華美術館』

詞華美術館 (講談社文芸文庫)

詞華美術館 (講談社文芸文庫)

こういう本はお好きだろうか。
テーマに沿って古今東西の詩、短歌、俳句、小説などから選りすぐりの美しいものを収集し塚本邦雄が解説を寄せたアンソロジー
めくってもめくっても美文。私は定家の歌が好き。


ダ・ヴィンチ2017年12月号

ダ・ヴィンチ 2017年12月号

ダ・ヴィンチ 2017年12月号

  • 発売日: 2017/11/06
  • メディア: 雑誌
特集・ロングインタビュー「本好きのための米津玄師」
米津が影響を受けた漫画やおすすめ本が紹介されている他、刊行当時はBOOTLEGが発売されるタイミングだったためタイアップ先にも触れられている。

また「人生のバイブル」として、最も影響を受けたという宮沢賢治の詩集・春と修羅について詳しく語られている。
少し引用したい。

小説はいろんな言葉を尽くしながら構成されるもので、それこそがよさだとは思うんですけど、詩や短歌にはパッと手に掴んでポケットにバッと入れられる、くらいの手軽さがある。印象的な詩の一節って、お守りみたいな感覚で持っていられるんですよ。恋人同士がおそろいの指輪をして、それを見るたびに愛しい相手の顔や人生を一瞬で思い出すみたいに。

私も趣味で短歌を詠んでいるので、言っていることはよく分かる。途方もなく長いストーリー、人生がそこには圧縮されている。
というか「詩や短歌」とわざわざ並列するからには米津もしかして短歌も読んでいるのでは?
これまで読んだ詩集にも定型詩は多く収録されていたので、特別な興味があってもなくてもよく読んできている可能性は高いと思っていたのだが、もしそうだとしたらとても嬉しい。

解釈の話

ここからは私の考えなので春と修羅から話が逸れる。

米津の歌詞は短歌的だと思っている。
ストーリー上の膨大な情報を少ない字数で切り取り、削ぎ落とされたはずの「余白に書かれていたであろうこと」を読者が想像で埋めるシステムが取られている。

私が短歌を始めた時は、書きたいことを読み取ってもらうには「限られた字数の中にどれだけ書けるか」だと思っていたのだが、やっていくにつれてそれは違うのではないかと考え始めた。
「何を書くか/書かないか」ですらなく、「書かれている外側にあるものをどれだけ想像してもらえるか」ではないかと思うようになった。

米津の曲は、過去や未来の風景も描かれているようでありながら、それを思い浮かべている今その時の強烈な感情を執拗なまでに描写しているから、あんなに刹那的で物悲しいのに煌めいている。書かれていないことがあればあるほど、読者が思い浮かべた景色は鮮明で確かな真実として浮かび上がってくる。

それでいて歌詞の解釈の余地が広く、プロット上のある関係性から別の事象にスライドするとまた違う解釈ができる。

単純に形式だけを見ても、印象的なフレーズが五音または七音で構成されていることが珍しくない。
都々逸であるFlamingoは言うに及ばず、「ここが上の句」「ここ下の句」という箇所も点在する。その筆頭がLemonの結び「今でもあなたはわたしの光」で、揺るぎない真実であると同時に無数の解釈を許している、優れた下の句である。


これらの手法ひとつひとつはJ-POP全体で非常に多く見られるものであり、別段目新しいことではない。
しかし米津の書き方は飛び抜けてうまい。その手にかかれば、現代のポップスにおいてはむしろ新鮮にさえ聴こえる。

番外編

ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

  • 作者:ヴィアン
  • 発売日: 2011/09/13
  • メディア: 文庫
五月に読んだ本が再登場。
新曲・感電の歌詞に「肺に睡蓮」があると教えてもらった。

ドラマの主題歌として書かれた曲で、感染症の影響で撮影や放送日も延期になり、その間にボロボロに泣きながら読んだ本が、六月になって米津からまた手渡されたようだった。