- 作者: 佐藤友哉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/08/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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鏡家サーガ最新作にして名短編集
実に「水没ピアノ」以来の佐藤友哉です。
人生で初めて壁に投げたくなる経験をしたのは、密室本だからという理由で読んだクリスマス・テロルでした。それからフリッカー式とエナメルを読んで、水没ピアノ。
良い小説でした……鏡家の人間たちを巡る物語であり、同時に書くことと読むことの関係を重ねた小説。特に「ナオミに捧ぐ ――愛も汚辱のうちに」は、作品を通し、時を共有することの意味――同時代に生きることの歓びが描かれた傑作でした。
「ナオミに捧ぐ ――愛も汚辱のうちに」について
少女が出逢った「書く人」との、ほんの僅かな時間に交わした会話をめぐる物語です。
月並みな感想ですが、書くことと読むことの関係を描いた傑作でした。有川浩「ストーリー・セラー」を思い起こさせますが、しかしあの夫婦のように近しい関係ではなく、"書き手"と"読み手"の間には越えることのない一線が存在し、それでも両者が関わり合おうと、取るべき手を探し続ける物語だと思います。
その人に"書くこと"と"読むこと"を望む、ただそれだけの愛が描かれている。
こんな言い方では本当にありふれた小説のようだけど、「ナオミに捧ぐ」は同時代に生きて作品に触れられる幸福を知る人には読んでほしいです。
小説以外にも、音楽でも絵画でも建築でも演劇でもいい。どこかにこんな関係があったら、と望んだことのない人間は、たぶんその中にはいない。
言葉と祈りを重ねて、作品が届かなくなった後にさえ残る愛を見せられた思いでした。作家に限らず、2.5次元の人を思う人間には響く小説だと思います。
ちょうど今年はdefspiralのアルバム「Voyage」が発売されたことを機に、作品を巡る時間軸について考えることが多かった*1ので、感慨深かったですね。