バチカン奇跡調査官シリーズを読んでいます

Kindle Unlimitedに登録してから、これまで読んでこなかった旧作、ベストセラーをよく読んでいる。
バチカン奇跡調査官は以前短編集『独房の探偵』だけ読んだことがあって、Kindle Unlimitedに序盤の巻が何冊か入っているのを見つけて「それなら読んでみよう」とダウンロードして読み始めた。
そしてUnlimitedサービスにある巻をすべて読むと腹を括り、電子書籍で全巻まとめ買いして、現在『悪魔達の宴』まで読んだ。
第一巻『黒の学院』を読み始めてからおよそ一ヶ月。私にしては速いペースで、白状すると睡眠時間と社会生活をだいぶ犠牲にした。

コロナ禍でライブはない、試合会場は遠い(基礎疾患があるのでカルテのない土地に行きたくない)、挙句に応援していたバンドの活動休止が決定した頃だった。人は得てしてそういう心の隙間だらけの時にタチの悪い男に引っかか沼に落ちるものである。


のめりこんだきっかけは第二巻『サタンの裁き』だった。
ミステリ好きとしては『黒の学院』よりもこちらの方が完成度が高いように思う。
カトリック教会を舞台にする必然性がより強く、随所に張り巡らせたホラー要素と伏線をきっちりと回収する真相。全体的にとてもスマートにできたミステリだ。

この巻を読んで私は主役の一人ロベルト・ニコラスのことが大好きになった。
家の事情で聖職者になった出自から神父なのに信仰も半信半疑、博識であるが故にキリスト教の歴史への後ろめたさも感じ、悩み惑いながらそれでも相棒・平賀とともに必死に真実を追い求める姿についつい感情移入して応援したくなるのだ。
あと化粧をしてほしい。もとが良いからYSLのレッドインザダークだけで完成すると思われる。

短編「日だまりのある所」ではロベルトの孤独な少年時代が描かれる。心を閉ざしていた少年が物語と出逢い、本を介して人と関わっていくエピソードに本好きとして共感せずにはいられなかった。
その続編でもある「シンフォニア 天使の囁き」は、うっかり公共の場所で読んだことを後悔した。一人で読みたかった。そうしていたらボロボロに泣いていたと思う。
彼の隣にヨゼフ、すわなち"神は増し加えてくださる"を意味する名の友人がいることの幸福を噛み締めた。


このシリーズは「バチカンに依頼された奇跡調査」というヴェールこそあるが、調査方法は地道なフィールドワーク×科学的検証であり、二人の神父の特性を発揮した先には歴史ミステリだったり伝奇だったり、はたまた島田荘司並みの超力技フィジカル解決が待っていたりする。
その中にキリスト教の、どちらかといえば後世にとっては負の歴史を踏まえている以上ロベルトのネガティブな面は不可欠でもあるのだが、そこは一冊ごとに平賀の善良さやサウロ大司教といった救いが用意されているので安心して読んでいられる。
『月を呑む氷狼』ではロベルト自身の信仰心が救いとなった。自分が自覚している以上に人を助けようとする意欲もあるし、愛と知性の人だと私は思う。

カトリックといえば『原罪無き使徒達』は刊行年からすると当時の時事ネタ満載だったのではないだろうか。
バチカンのスキャンダルから教皇の辞任も実際にあったことだし、天草の世界遺産登録に向けた運動もこの頃動いていた。
エピローグの平賀の台詞は現教皇フランシスコをモデルにしていると思われる。カトリックが他の文化や民族を侵害してきた歴史を謝罪し、他宗教・他宗派との対話を進めている方である。この巻はリアルタイムで読んでみたかった。

今はシリーズ既刊の折返しまできている。
もう半分、平賀とロベルトと一緒に駆け抜けていくのを楽しみにしている。