サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』

短編「オープン・ロードの聖母様」を読んで泣きたくなるような懐かしい気持ちになった。
演奏を録画してホロ技術で再生する"ライブ"が当たり前になった時代で、生の音を求める聴衆の前で演奏するため旅し続けるバンドの物語です。
この短編が書かれたのはいつなんだろう。コロナ禍のロックダウンを経た時代のように思えるけれど、その時代の前、確かに私はライブハウスの空間で音を浴び、そのために全国を駆けるバンドを愛していた。

『いずれすべては海の中に』は主に音楽SFの短編集で、どれも音楽がやがて人を見たことのない場所へと連れて行ってくれる物語である。その書き方がとても良い。
短編ならではの切れ味なら「孤独な船乗りはだれ一人」を推したい。これもまた音楽による自己表現の話です。